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2-26 トルファン・水の収支1 9/3

トルファンにはカレーズ楽園という博物館とリゾートを兼ねた観光地がある。本物のカレーズを見学できるようにした施設である。カレーズとは別名カナートともいい、乾燥地帯で作られた地下水路のことである。トルファンのような乾燥地帯は水の蒸発量が多いため水路を地下に造り、農地や居住区まで安定的に供給している。紀元前からイランに存在し、東西に普及してきたそうだ。

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トルファンは巨大な盆地である。この盆地内の平均降水量は16.6mmしかない。一方、年間の蒸発量は2845mmである。これでは人は生活できない。ここに人が生活できるのは、北の天山山脈の高地に年間800~900mmの降水・降雪があるからである。万年雪は天然の貯水池となり、流量は豊富である。この天山山脈に降った雨や雪解け水が河川や地下水となって盆地に流れ込んでくるのである。800~900mmという降水量は、東京の年間平均降水量約1600mmと比べると少ないが、長野県の約900mmと同じくらいである。降る面積が違うと思うが、高地には意外と水量は多いではないかと思う。



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最近トルファンでは水の不足が大きな問題となっている。地下水位の低下や水質の汚染などが発生し、カレーズの枯渇や農地の荒廃などが進行しているらしい。無秩序な井戸の掘削で過剰に地下水が利用されるようになったからである。

水資源の枯渇はこの地域にとっては死活問題である。新疆ウイグル自治区水利庁は、日本の国際協力機構(JICA)にトルファン盆地の水利用の調査を委託した。実際に調査を行った日本の会社が驚くほど緻密な調査をしている。この調査は2006年に最終報告としてまとめられている。以下はその報告書からの受け売りである。

このプロジェクトでは、現地で地表水と地下水の流入量、水の利用形態と量、水施設の保全状況などが調査されている。

河川は全部で14本ある。水路は18本、泉は72ありこれら全ての流量、水質などが調べられた。カレーズは1960年ごろから水位が低下し、かつて1400本以上あったものが現在では利用可能なものは420本に減少している。420本の流量、水質、構造、水の用途、枯渇の原因が調べられた。逆に井戸は増加し、現在では5664本ある。その全てについても、揚水量、水質、構造、所有者が調査された。一方、水の利用については85%が農業用水であり、この用途が急激に増加している。他に生活用水や石油生産用の用途も増加している。

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トルファン盆地全体の水の収支を把握するためには、地表水だけでなく地下水も一体的に把握しなければならない。そのために9本の試掘孔を穿ち、物理探査を行いトルファン盆地の地質を調査した。そして、盆地全体地下600mまでの地質構造を3次元モデルにし、地下水の動態を試算している。地下には河川などから地中に水が浸透する。調査した数値をモデルに入力し、盆地全体の地下水の流入量について長期的な試算を行っている。その結果は長期的な地下水位の実測値とほぼ合っている。

上の図は盆地全体の南北方向の2次元モデルである。色の違いは地層の違いを示す。高さ20m長さ1kmのグリッドを7600個作り、地層の特性を設定し、そこをどのように地下水が流れていくかを試算したものである。ここから先の報告書の内容は、素人にはついてゆけない。

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この分析によると、トルファン盆地は巨大な水盆を形成している。北側の天山山脈からの地下水が盆地の中央を縦断している火焔山の下を潜り抜け、南側の海跋-150mのアイディン湖のあたりに集まってくる。水の層も何層かある。地下600m以下の層は何万年もかけて貯水された枯渇性地下水資源である。

これらのデータをもとに、トルファン盆地の水の収支が計算された。河川および地下水としての流入量を年間12.7億㎥、水利用と導水路および地下水の合計蒸発量を15.1億㎥、差し引き2.4億㎥の赤字と試算した。そして、社会的に持続可能な許容揚水量を3.79億㎥、と結論付けた。




by chukocb400sb | 2018-12-28 04:52 | 2 敦煌からウルムチ | Comments(0)

この旅行記は、シルクロードを西安からベネツィアまでレンタル・オートバイのパックツアーを乗り継ぎ、17年かけて走ってきた記録である。


by 山田 英司