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6-00 マシュハドからタブリーズ・序  2014/9

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ちりばめた宝石など見たことはないが、この宝石をちりばめたような中にあるひときわ明るく輝く光の集合体はイランのマシュハドにある「ハラム」と呼ばれる巨大な宗教施設である。イランに着いたのは夜であったが、着陸前の航空機から最初に見たこの国の光景である。ここはイスラム教シーア派の聖地で、年間1200万人の巡礼が訪れるという。ハラムは単に宗教施設だけでなく、様々な関連企業を運営し行政も支配する宗教、政治、経済の巨大コングロマリットである。その宗教を中心とするあり方が現在のイランを象徴しているように思えた。

しかし旅行中現地で聞いたのは、「我々にとって宗派の違いというのは、生活習慣の違いに過ぎない。8割のイラン人はそのように思っている。」という言葉であった。外から見える姿と、中に入って聞く話ではずれがある。会った人の中には、かつてペルシアという大国であったという自負と今のイランを取り巻く状況の中で、こんなはずではないという葛藤を感じるのであった。

葛藤は私にも生じていた。あろうことかツアーの出発1週間前に、お袋が亡くなった。介護施設に入っていたのだが、病気が悪化してぽっくり行ってしまったのだ。お袋とは同居していたし、自分は長男なので葬儀は喪主となる。海外旅行どころの騒ぎではない。シルクロードツアーの道程もここで途切れることになると覚悟した。

葬儀の段取りで混乱する中、旅行会社のいつもの添乗員に電話し、断腸の思いでいけなくなるかもしれないと告げた。それはないでしょう、何とかならないのかと強く慰留されると思いきや、落ち着いた声で事務的にキャンセル料の説明が始まった。世間とはそういうものかと、水の涸れた川を眺めているような気持ちで電話の声を聴いていた。

葬儀の方は思いのほか段取りよく収まり出発日の3日前には自宅に遺灰を持ち帰ることができた。後は納骨だけである。ここで気が付いた。納骨は民間の霊園である。世話になっている寺などない。別に急ぐ必要はないのではないか。ひょっとしたらツアーに行ったその後でもいいのではないか、つまりツアーに行っても差し支えないのではないか。しかし社会的にそのようなことが許されるのか、親族からはどのように思われるのか。

おそるおそる妻にアンダーサーブで緩いボールを送ってみた。
「今カラ旅行ニ行ッテモイイカナ?。」
即座に怒りの青白い炎に包まれた強烈なドライブのかかったレシーブが返ってきた。
「ソンナコト、オ父サンンガ自分デ決メレバイイデショ。」
想定以上の反撃に会い瞬間的な過負荷で思考回路は停止してしまった。しかし、心は本能に忠実にであった。体が自然に動いて素直にフラットで打ち返していたのだ。
「ジャア・・・、行イッテキマス。」

沈黙を振り返ることもなく急いで荷物を担いで成田に走った。打ち返したボールがどこに飛んで行ったのかは見届ける余裕はなかった。






by chukocb400sb | 2023-12-31 23:25 | 6 マシュハドからタブリーズ | Comments(0)

この旅行記は、シルクロードを西安からベネツィアまでレンタル・オートバイのパックツアーを乗り継ぎ、17年かけて走ってきた記録である。


by 山田 英司