6-40 根性のある女たち 9/20
2022年 07月 08日
キャドバーン村を上から眺めた後、下に降りて土産物屋の並ぶ道に戻ると先ほど同じ部屋で説明を受けていた若いイラン人の姉妹が興味深そうに我々のことをいろいろ聞いてきた。我々が日本人でバイクのツアーでやってきたと聞いて驚いたらしい。実は自分もバイクも持っていると話してくれた。おまけに空手もやっているんだと自慢していた。
今度はこっちが驚いた。イランでは女性がバイクに乗っているのか。イランに着くなり女性には話しかけるなと言われていたが、この娘さんは臆することなくしかも英語で積極的に声をかけてきてくれた。明るくて活発な娘さんである。
イランでは女性の社会的地位は低く、ジェンダーギャップ指数では世界で140番ぐらいとかなり低い。今でもチャドル着用の取り締まりを警察が行っているぐらいである。サッカーの試合も女性が観戦できたのは2018年の鹿島アントラーズの試合が最初で、抽選でわずか300名のみであった。
しかし街を歩いていると、イランの女性は男性から一歩下がっているという雰囲気ではない。外出の際女性に義務付けられているチャドルは素顔や肌が人目に触れないようにという目的のものであったが、何か被っていればいいんだろと逆手にとって鮮やかな色彩のものをまとい、自己主張の一部として着こなしている人もいるようだ。最もこれは都会で、という注釈付きである。
もともとイランには才色兼備の女性が機転を利かせて男性を助ける昔話が多い。あのアラビアンナイトも猜疑心に凝り固まって暴虐な行いをする王に対し、シェヘラザードという教養のある娘が、珍しい話や不思議な話を語り続け王をいさめようとするところから始まる。
「アリババと40人の盗賊」では機転を利かせ主人を救うマルジャーナという器量よしで賢い女奴隷(家事使用人)が登場する。マルジャーナは盗賊が油商人に変装してアリババの屋敷に入り込み、中身は油と偽ってたくさんの壷を家の中に持ち込んだところ、壺の中の声から盗賊が入っていると見破り、煮えたぎった油を注いで37人の盗賊を殺してしまった。
そして変装して復讐に戻ってきた盗賊の首領をふとした言葉で見破り、踊りながら短剣でずぶりと刺し殺してしまった。こうしてアリババの窮地を救い、アリババはマルジャーナを奴隷の身分から解放し甥と結婚させることにした。甥も器量よしのマルジャーナを好きだったので二人は幸せに暮らしを送ることができた。
子供のころはこの話に何の疑問も抱かなかったが、冷静に考えると疑問が次々と湧いてくる。我々は物語を読んでいるから盗賊が商人に化けたことを知っているが、マルジャーナはそれを知らないはずである。危険を予知していたとはいえ不法侵入だけで、しかも高価な油を37人分時間をかけて沸騰させ、一人ひとり壺に注いでしかも誰一人声を立てさせることなく殺害するという尋常でないしかし鮮やかな手段をその場の思い付きで実行している。
ペルシアには「一緒に塩を食べたものは友人である。」ということわざがある。盗賊の首領はこれから殺そうとする者と塩を食べるわけにはいかないと考え「料理に塩を入れないでくれ。」と頼んだのだが、この一言で殺された。高血圧で塩分摂取を控えている人もいるなどという可能性は一切排除し、「怪しい」「可能性」があると思っただけで躊躇することなく首領を殺害しているのである。
敵とみなした者に対しては、容赦のない非情な行為を即座に実行できる恐るべき女性である。このような女性と結婚したアリババの甥は本当に幸せだったのだろうか。いや、それよりも天寿を全うできたのだろうか。
性格の悪い強烈な女性も登場する。がみがみ屋のファーテメというおかみさんである。ファーテメは口が悪くいつも夫をがみがみ怒っていた。夫はとうとう頭にきて、ファーテメを井戸の中に投げ込んでしまった。2~3日して様子を見に行くと、井戸の中からヘビがこのがみがみ屋の女から助けてくれたらお金をあげると叫んでいるのが聞こえた。
夫が桶を下ろしてヘビを助けると、ヘビはお礼に私が知事のお嬢さんの首に巻きつくので、あなたが来てほどいてください。そうすればお金がもらえますといって去っていった。しばらくすると知事の娘がヘビに巻き付かれて誰もとることができないと騒ぎになった。夫が知事のところに行ってヘビをほどくと、ヘビはこれで貸し借りなしですよと言って去っていった。こうして夫は知事から金貨をもらうことができた。
しばらくすると今度は別の知事の娘にヘビが巻き付いて離れないと騒ぎになった。夫が行ってみるとあのヘビが巻き付いている。夫を見たヘビは貸し借りはなくなったはずです、なんでここにきたのかと言った。夫は、自分はただ親切にあのがみがみ屋のファーテメがやってきたと知らせに来ただけだといった。するとヘビは一目散に逃げて行ってしまった。こうして夫はまた金貨をもらうことができた。
アラビアンナイトやペルシアの民話に出てくる女性はその存在感が鮮明である。同様に女性の顔立ちは堀が深く鼻筋が通った美人が多い。ところがイランでは整形美容の手術が結構盛んに行われているとアリさんが教えてくれた。整形美容とは鼻を低くする手術であるらしい。鼻が高すぎると可愛げがないので、少し鼻を低くするそうである。降鼻術というらしい。アリさんは見ればだいたいわかると言っているが我々が見ても全く分からなかった。これ以上美人にならなくてもいいと思うのだが、やはり女性は自分自身を主張するのである。
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by chukocb400sb
| 2022-07-08 06:40
| 6 マシュハドからタブリーズ
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